蔵本モデル (以下ではKMと略)は1970年代に蔵本由紀氏により提案された,化学や生物 および物理現象等に現れる非線形振動子集団の同期現象を記述する大次元微分方程式系 であり,これまでに膨大な理論的あるいは数値的な研究が行われている.本講演では, 確定稠密,確率稠密あるいは確率スパースグラフ上で定義されたKMとその連続極限 (以下では CLと略) のダイナミクスについて,講演者の最近5編 (現在投稿中) の論文の 研究成果を解説する.この講演で取りあげるCLは一種の積分微分方程式であり, 確率的な自然振動数を有するKMの研究で通常用いられている,Vlasov方程式と 呼ばれる積分偏微分方程式とは異なるものである.
講演では元学生の伊原氏との共著論文 (一昨年出版) の結果をまず紹介した後,KM およびCLにおける以下の解の存在,安定性および分岐を議論する:
(i) 確定的な自然振動数を有する古典KMの同期解;
(ii) 一様グラフ上で定義され,確率的な自由振動数を有する場合の同期解;
(iii) 2つのグラフ上で定義され,2つのモードの相互作用を有する場合の同期解;
(iv) 最近傍グラフの場合のねじれ (twisted) 解;
(v) (iv) においてフィードバック制御を受ける場合のねじれ解.
(iii)では一様グラフと最近傍グラフの組を対象とし,(ii)から(iv)では確定稠密, 確率稠密および確率スパースグラフ,(v)では確定稠密グラフを取り扱う.解析の 道具は主として力学系理論からの手法であり,(i)ではKMを直接的に解析して, KMとCLで起こる分岐現象が大きく異なることを明らかにする.(ii)では(i)と(ii)の CLの等しいことを用いることにより,(i)の結果から同期解の安定性と分岐を論ずる. (iii)から(v)ではCLの分岐現象を解析し.KMの数値シミュレーションで同様の分岐 現象が起こることを確認する.
最後に、KMおよび積分微分方程式などそれ以外の問題の数理解析への今後の研究 の展開について触れたい.