1 次元圧縮性粘性流体中を運動する質点の長時間挙動

開催日時
2020/05/22 金 15:30 - 16:30
講演者
小池 開
講演者所属
京都大学大学院工学研究科
概要

1 次元圧縮性 Navier-Stokes 方程式で記述される流れを考え,その中で流体からの力を受け,Newton の運動方程式に従って運動する質点を考える. 簡単のため,流れは順圧的とする. 本講演では,この質点の速度 $V(t)$ の長時間挙動に関する次の結果を紹介する: $V(t)$ はべき乗則 $V(t) \sim t^{-3/2}$ に従って減衰する [https://arxiv.org/abs/1904.00992]. 類似の結果としては,Burgers 方程式で記述される流れの中を運動する質点を考察した Vázquez & Zuazua による結果がある. 彼らの結果によると,$V(t) \sim t^{-1/2}$ である [J. L. Vázquez and E. Zuazua, Comm. Partial Differential Equations, 28 (2003) 1705-1738]. 従って,Navier-Stokes 方程式の場合の方が $V(t)$ の減衰は速い. この速い減衰は流れの圧縮性に起因することが示される. また,方程式の非線形性も本質的に重要である(線形化方程式を考えた場合,初期値の空間的な減衰が指数的であれば,$V(t)$ も指数的に減衰する).  証明は Green 関数の時空間における各点評価を利用して行う. Cauchy 問題の場合,すなわち基本解の各点評価は [T.-P. Liu and Y. Zeng, Mem. Amer. Math. Soc., 125 (1997) 599] によって与えられており,非線形問題の評価法も確立されている. また,半空間の場合,非線形問題の評価はやや不完全だが,Green 関数の各点評価は [L. Du and H. Wang, Discrete Contin. Dyn. Syst., 38 (2018) 1349-1363] で与えられている. 本研究では,質点を伴う場合に Green 関数の各点評価を与え,また非線形問題の評価を Cauchy 問題の場合と同じレベルまで行うことで,長時間挙動 $V(t) \sim t^{-3/2}$ を証明する.  本研究は元々,BGK モデル(Boltzmann 方程式のモデル方程式)に対する類似の問題を数値計算によって調べた [T. Tsuji and K. Aoki, J. Comput. Phys., 250 (2013) 574-600] の結果を,数学的に説明することを目的としている. すなわち,BGK モデルの代わりに,流体力学極限として得られる Navier-Stokes 方程式の場合を先に理解することを目指して行われた. こうした背景についても紹介したい.

備考: 本セミナーはZoomオンラインセミナーとして開催します.