μ-cscK計量

開催日時
2019/06/04 火 15:00 - 16:30
場所
6号館609号室
講演者
井上瑛二
講演者所属
東京大学
概要

コンパクトKahler多様体上にKahler-Einstein計量が存在することは、その1st Chern classがゼロまたはKahler/anti-Kahler class、かつ(偏極)代数多様体としてK安定なことと同値であることが知られている(Aubin,Yau,Odaka,Chen-Donaldson-Sun,Tian)。現在では定理となった上記の主予想(Yau-Tian-Donaldson予想)の解決とともに爆発的に流行したK安定性という概念は、GIT安定性のHilbert-Mumford criterionを模倣しているため、代数多様体の(良い)モジュライ空間の存在を理解する手がかりであると信じられている。しかし上記の1st Chern classに関する条件は、あるいはK安定性そのものが、より広い範疇の代数多様体のモジュライ空間の理論展開にとってやや強すぎる制約である。(たとえばトーリック(Q-Fano)多様体でも、有限個を除いてK安定でない)
これに関してcscK計量,extremal計量やKahler-Ricci solitonなどの互いに異なる方向への計量概念の一般化と対応するK安定性概念の一般化が考えられるが、Kahler-Ricci solitonについてKempf-Nessの定理を雛形とするDonaldson-Fujiki pictureを導くと、自然にcscKとKahler-Ricci solitonを包含する新しい計量概念が出現する。
今回新しく導入するμ-cscK計量という概念は、cscK計量とKahler-Ricci solitonを統一的視点から扱おうという試みから自然に生じる。μ-cscKは実数λでパラメトライズされた計量概念で、Kahler-Ricci solitonの場合にTian-Zhuが考察した体積汎関数という概念を拡張(μ-体積汎関数)して性質を調べると、λが-∞に発散するときextremal計量へ繋がる”bordism”のようなものが現れる。このμ-体積汎関数の性質がμ-cscKという概念の命運を握っているが、講演者本人が解決に苦難している基礎的な課題がまだ幾つか残っている。すでに分かっていることを説明した上で、未解決の課題も炙り出して解説したい。