遅延座標系による時系列解析〜埋め込み・積分作用素・グレブナ基底〜

開催日時
2018/06/20 水 16:30 - 17:30
場所
3号館110講演室
講演者
中野直人
講演者所属
京都大学
概要

ここでは,遅延座標埋め込みという時系列解析手法にまつわる数学的な話題について概論をおこなう.

スカラー時系列データに対してその数ステップ間の変動を一つのベクトルデータとして表したものを遅延座標系と呼ぶ.この遅延座標系を用いて時系列データの性質を調べる手法が遅延座標埋め込みである.複数の変数で記述されるモデル方程式では,部分的な変数の時系列データから遅延座標埋め込みをすることで「力学の再構成」が可能であることが知られており,支配方程式のわからないような現象の解析やモデリングに用いられている.

Takens (1981),Sauer ら (1991) などの研究によって手法の数学的正当化もなされているが,一方で埋め込み次元や遅延幅などの「埋め込む方法」には依然として課題が残されている.ここでは,遅延座標埋め込みの手法を積分作用素の枠組みで捉え直すことで,適切な埋め込み方の一つを提案する.

また,導函数座標系を導入することで,本手法による「力学の再構成」とは埋め込み変数の満たす微分方程式の直接推定であることがわかる.さらに,対象を多項式で表される力学系に限定すると,「力学の再構成」のための一連の手続きは,その力学系から得られる代数方程式系に対する適当な単項式順序の下でのグレブナ基底の計算に他ならないことがわかる.グレブナ基底の各元が力学系の情報を保持していて中々面白いので,具体例を交えて解説したい.尚,後半のグレブナ基底に関する話題は,石塚裕大氏(京大)との共同研究に基づく.