一次元力学系の大偏差原理とその普遍性について (鄭容武氏 (広島大学)、Juan Rivera-Letelier氏 (University of Rochester)との共同研究)

開催日時
2015/10/16 金 14:00 - 17:00
場所
6号館609号室
講演者
高橋 博樹
講演者所属
慶応義塾大学
概要

大偏差原理は「大数の法則」「中心極限定理」に次いで「確率論の第3の原理」とも呼ばれ、測度が集中がする点からの「ずれ」の確率を問題にする。力学系で大偏差原理が成立するかどうか調べることは、決定論的時間発展が生み出すランダムネス(=カオス)を確率論的に理解する上で重要である。

本講演では、区間[0,1]からそれ自身への可微分写像の反復合成が生成する一次元力学系を考える。周期点の双曲性と臨界点の型、および写像の位相混合性に関するきわめて弱い条件のもとで、大偏差原理が成り立つことを示す。この条件をさらに弱めることは困難であり、我々の結果は決定的なものと考えられる。

一次元力学系の極限定理や統計的性質などを証明する際、通常は臨界点の影響をコントロールするために臨界値の軌道に沿う微分が十分速く増大する、などの条件を仮定する。我々の結果はこういった条件を全く仮定しない、専門家にとって意外な結果である。

臨界点の個数が1で、それが極値点であるようなものはunimodal map (単峰写像)と呼ばれる。unimodal mapは(i) 吸引周期点をもつ (ii) 無限回繰り込み可能 (iii) 高々有限回繰り込み可能、の三つのタイプに分類される。(i) は双曲理論の範疇に入り、(ii) の理解も進んでいる。絶対連続不変確率測度やwild Cantor attractorを持つものは(iii) に入る。2次写像族などの実解析的なunimodal mapのパラメーター族では、Lebesgue測度に関しほとんど全てのパラメーターについて (i )か (iii) である(Lyubich, Avila&Lyubich&de Melo)。また (iii) のLebesgue測度は正である(Jakobson, Benedicks&Carleson)。

我々の結果より、大偏差原理が (iii) のタイプの任意のunimodal mapについて成立することが従う。特に、physical measureが存在せず(Keller&Nowicki)、従って測度の集中がない状況で大偏差原理が成立する、という一見すると不思議な現象が起きる。これらのことは、大偏差原理がきわめて広いクラスの力学系のダイナミクスを統制する普遍的な原理であることを示唆しているように思われる。