ユークリッド空間のハミルトン微分同相群と擬準同型・交換子長の変形

開催日時
2014/05/27 火 15:00 - 16:30
場所
6号館609号室
講演者
川崎盛通
講演者所属
東大数理
概要

群上の共役不変ノルム(conjugation-invariant norm)はBurago-Ivanov-Polterovichの2008年出版の論文において提唱された概念である。これは、幾何学的群論・低次元トポロジーに登場する交換子長、力学系理論に登場する分裂長、シンプレクティック・トポロジーに登場するHofer長などの一般化として考えられたものである。

今回、安定非有界な共役不変ノルムをEuclid空間のHamilton微分同相群の交換子群上に構成することに成功した。この群は交換子長が安定有界な完全群であるので、Burago-Ivanov-Polterovichの提出した未解決問題「交換子長が安定有界な完全群上において、任意の共役不変ノルムは安定有界となるか」に対し否定的な解答を与えたことになる。

本講演では上記の結果に関連して以下について述べる。

・共役不変ノルムの基本について解説する。

・Gromovの非圧縮性定理、Lagrange非交叉といったシンプレクティック・トポロジー特有の現象をシンプレクティック剛性としばしば呼ぶ。これと類似した現象が接触トポロジーでも発生し、接触剛性と呼ばれる。
近年、接触剛性の発生と接触微分同相群上の共役不変ノルムの安定非有界性との関係を指し示す現象がいくつか見つかっている。今回の結果と直接の関係はないものの、共役不変ノルムを考える重要な動機の一つであるので解説する。

・安定非有界な擬準同型があれば交換子長も安定非有界となる、という事実が古典的によく知られている。擬準同型、交換子の概念をともに変形しても上の事実の変形が成立することを指摘する。擬準同型、交換子長の変形の方法であるが、それぞれEntov-Polterovichのカラビ擬準同型の理論、坪井の微分同相群の一様単純性に関する議論に類似の概念が登場する。

・擬準同型の変形をEuclid空間のHamilton微分同相群上で具体的に構成する。構成のアイデアはBarge-Ghysが球体のHamilton微分同相群上で構成した擬準同型から来ている。構成したものが擬準同型の変形となることを見る。これにより、今回の結果が得られる。

・上の議論を見ると、ある種の無限性を持った群について交換子長の定義の「考え直し」の可能性が自然に浮上してくる。そこで、無限種数写像類群、無限純粋ブレイド群について今回と同様の結果が得られるかについても話したい。これは研究途上の話である。