自己紹介
私の専門は幾何学的表現論とよばれる分野です。おおざっぱには代数系を与えた時にその代数系の表現論を復元できるような多様体を見つけ出し、その性質を調べる事によって元の代数系を理解しようという分野です。
例えばSL(2, C)の既約有限次元表現と射影直線P1上の非負正則直線束(の同型類同士)が1対1に対応するというBorel-Weilの定理(の特別な場合)があります。これはSL(2, C)の既約表現をSL(2, C)の共役類の集合で理解するという形で有限群の既約表現の分類の類似とも代数群の表現のLanglands分類などの一部分ともみなせます。また、P1やその余接束の上の適切な幾何学的構造物を考えることで(適切なクラスの)SL(2, C)の無限次元表現まで延長した形で理解できます。
そのような延長を考えることでSL(2, C)の無限次元表現論が付随する(ループ)量子群、アフィン・リー代数、p-進代数群などの表現論と深いつながりを持つことが自然に理解できます。これは古典的なリー群、代数群の表現論から生じるひとつのモチーフが多くの代数系の表現論の核を成しているということを意味すると考えられます。幾何学的にはそのモチーフがP1によって記述できるというわけです。そして、等価な記述を(無限次元)多様体である(大域的)アフィン・グラスマン多様体や半無限旗多様体を用いて与えることもでき、それによりcluster構造や場の理論など高次の構造との関係を見ることができます。
私自身は現在半無限旗多様体と呼ばれる旗多様体やその仲間たちのループ空間と思える空間およびそれに関連する表現論について調べています。半無限旗多様体はアフィン・リー代数の臨界レベルにおける表現論を記述する重要な多様体ですが、なぜか最近まで主に多様体「もどき」としてしか扱われて来ませんでした。それを「代数多様体」として捉え直すことで幾何学的Langlands対応におけるGaitsgoryさんたちの難しい理論を理解したり、共形場理論(Wess-Zumino-Witten模型やその親戚)をより表現論的な形に書き直したり、量子K群の構造を(現状でのMaulik-Okounkov理論の定式化とは別に)表現論的に詳細に理解することを短期的な(2023年くらいまでの)目標としています。
表現論という分野に興味を持った方へ
表現論のひとつの目標としては代数系を固定して適切な条件を満たすベクトル空間の同型類を分類・構成するというものが挙げられます。この代数系の選択としてありがちなものは、有限次元環、リー群(位相群)、代数群、量子群、ヘッケ環、頂点作用素代数、作用素環などがあり、各々かなり研究手法が異なります。研究手法以前に分野の核についての認識についても差異もあり、よくある立場として次の4つが挙げられます:
- シンプレクティック(もしくは)ポワソン多様体としての幾何学的構造の量子化が表現論であるとするいわゆる軌道法
- 簡約代数群の重要な表現は対応する体のガロア群の表現から得られるといういわゆるLanglands対応
- 代数系の包含関係をもとに誘導及び制限によって表現論が形づくられるというHarish-Chandra誘導
- 対称性とは適切な意味でのテンソル圏、もしくは適切な意味での位相的場の理論など、とにかくnaiveな意味では代数でないものであり、それを実現するような代数系を構成する分野が表現論だという考え方
これらはある意味で立場のpure stateであり、その任意の混合も立場となります。1.に属する考え方としては古典的なものとしてはKirillovの軌道法、幾何学的量子化、新しい話だとconical symplectic singularityの量子化や(量子)Coulomb枝などがあると思います。2.についてはLanglands対応とその変種(p進, mod p, 幾何学的など)が主な例です。また、Lie型有限群(有限体の上の単純代数群)の既約表現のLusztigによる分類のように"表現論の構造の骨格はルート系以外にあまり依存しない(はず)"といういわゆるLefschetz原理と組み合わせて考えると多くの変種があります。3.はメジャーな研究手法で、古典的なものとしてFrobenius相互律及びMackey machine、そしていわゆるLanglands分類などがここに属します。量子群の表現の圏化などの話は誘導及び制限の理論がただ単に綺麗であるという以上の意味を持っているということを主張しています。4.は漠然としていて、いわくいいづらい面もありますが、例えば頂点作用素代数や量子群の導出などはここに属します。これらの代数系を導出する背景となった共型場理論や可解格子模型などもここに含めたいです。
なお、上のような立場だと有限次元代数、cluster代数、作用素環論などは良い代数系を包括するさらに大きい枠組みと捉えられるのではないかと思います。
大学院修士課程において私のところで研究することを検討されている学生さんへ
最終更新日:2021年4月2日 by
