微分幾何学 (2024年度後期)
参考書:
小林昭七「曲線と曲面の微分幾何」
西川青季「幾何学的変分問題」
John M. Lee, "Introduction to Riemannian Manifolds"
John Milnor, "Morse theory" のリーマン幾何の章
- 10月1日
- Riemann幾何,symplectic 幾何,複素幾何の紹介.
- ユークリッド空間$\mathbb{R}^N$に埋め込まれた多様体$M$のRiemann計量,曲線の長さ,曲線の弧長パラメータ表示
- $M$の2点$p,q$を結ぶ最短の曲線を求めたい.$M=\mathbb{R}^N$なら直線,$M=S^{N-1}$なら大円(となると期待される).
- 曲線に沿ったベクトル場とその共変微分.$X(t)$を曲線$c(t)$に沿ったベクトル場とするとき,その共変微分を$\nabla_t X(t) =\left( \frac{d}{dt} X(t)\right)^\parallel$で定める.ここで,$X(t)$は$\mathbb{R}^N$に値を取る関数と考えており,$v^\parallel$は$v\in \mathbb{R}^N$の直交分解$\mathbb{R}^N = T_xM \oplus (T_xM)^{\perp}$に関する平行成分($T_xM$成分)を表す.
- 変分問題:(速度がどこでもゼロにならない滑らかな)曲線 $c\colon [a,b] \to M$ に対して $c$ の長さ $L(c) = \int_a^b \|\frac{dc}{dt}(t)\| dt$を対応させる汎関数の臨界点を求める.ただし,曲線の始点と終点は固定する.
- 曲線 $c$ の端点をとめた変形$\{c_s\}$.$\frac{d}{dt} L(c_s)|_{s=0}$の計算.
-
$c(t)$が弧長パラメータ表示された曲線で,上の汎関数の臨界点であるとき,それはEuler-Lagrange方程式\[\nabla_t \frac{dc}{dt} = 0\]を満たす.逆にこの方程式を満たす曲線を測地線という.測地線の速度$\|\frac{dc}{dt}(t)\|$は$t$によらず一定.
- $\mathbb{R}^N$上の測地線は直線.
- 演習:Riemann計量を保つ微分同相$\phi \colon\mathbb{R}^N \to \mathbb{R}^N$を分類せよ.
- 10月8日
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$S^{N-1} \subset \mathbb{R}^N$の測地線が大円(2次元部分空間と$S^{N-1}$との交わり)であることを示す.
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定義から,測地線の概念はRiemann 計量のみに依存する.共変微分$\nabla_t$も(埋め込みの取り方によらず)Riemann計量のみに依存することを示したい.
- 例:$M=\{x^2 + y^2 = z^2, z>0\}\subset \mathbb{R}^3$の測地線を求める.局所的に$\mathbb{R}^2$と等長同型(Riemann計量を保つ微分同相がある)であることを使う.
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$f\colon M \to \mathbb{R}^N$を埋め込みの写像とする.Riemann計量 $g_{ij} = g(\partial_i, \partial_j) = (\partial_i f, \partial_j f)$.$g= \sum_{i,j} g_{ij} dx^i \otimes dx^j$と書く.ただし$\partial_i = \frac{\partial}{\partial x^i}$.
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共変微分の座標表示.$\{x^i\}$を局所座標,$X(t) = \sum_i X^i(t) \partial_i$を$c(t)$に沿ったベクトル場の座標表示とするとき
\[
\nabla_t X(t) = \sum_i\left( \frac{dX^i}{dt}(t) + \sum_{j,k} \frac{dc^j}{dt}(t) \Gamma^i_{j,k}(c(t)) X^k(t)\right) \partial_i
\]
ここで$\Gamma^i_{j,k}(x)$は$(\partial_i\partial_j f(x))^\parallel = \sum_k \Gamma^k_{i,j}(x) \partial_k f(x)$で定義されるChristoffel 記号
- Einsteinの和の規約:上と下に同じ添え字が現れるときは,その添え字にわたって和を取る.$a_i b^i$ は $\sum_i a_i b^i$を表す.以下,Einsteinの規約に従う.
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測地線の方程式を局所座標を使って書くと,$\frac{d^2 c^i}{dt^2}(t) + \Gamma^i_{j,k}(c(t)) \frac{dc^j}{dt}(t) \frac{dc^k}{dt} = 0$となる.
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測地線の局所的な存在と一意性:与えられた点$x\in M$と接ベクトル$v\in T_xM$に対して$c(0) = x$, $\frac{dc}{dt}(0) = v$を満たす測地線が$0$を含む十分小さい開区間上で存在する.そのような測地線が二つあれば,それは定義域の共通部分で一致する.
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定理:$\Gamma^k_{i,j} = \frac{1}{2} \left( \partial_i g_{l,j} + \partial_j g_{l,i} - \partial_l g_{i,j}\right) g^{l,k}$,ただし$(g^{i,j}(x))$は$(g_{i,j}(x))$の逆行列.
- 曲線に沿ったベクトル場の平行移動.曲線$c\colon [a,b]\to M$およびベクトル$v\in T_{c(a)}M$に対して,$c(t)$に沿ったベクトル場$X(t)$で$X(a)=v$を満たし,平行である($\nabla_t X = 0$を満たす)ものがただ一つ存在する.$X(b)$を$v= X(a)$の$c$に沿った平行移動という.
- 演習:測地線の場合と違って,平行移動が全区間$[a,b]$上大域的に定義できるのは何故か?
10月22日
- 曲面$M\subset \mathbb{R}^3$の微分幾何(の復習)
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第1基本形式(Riemann計量のこと):$g = g_{ij} dx^i \otimes dx^j = g_{ij} dx^i dx^j = E(x) (dx^1)^2 + 2 F(x) dx^1 dx^2 + G(x) (dx^2)^2$. ただし,$dx^idx^j = \frac{1}{2} (dx^i \otimes dx^j + dx^j \otimes dx^i)$.
- Gauss map $n\colon M \to S^2$とは,$\|n(x)\|=1$, $n(x) \perp T_xM$を満たす連続写像.取り方は$\pm n$の2つある.
- shape operator $S \colon T_x M \to T_x M$とはGauss map の微分$d_x n$.
- 命題:$S$はRiemann計量について対称である.つまり$g(S(u),v) = g(u, S(v))$.
- 上記の命題より$S$は対角化可能で,その固有値$\kappa_1, \kappa_2$は実.
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定義:$\kappa_i$を主曲率,$H = \frac{1}{2}(\kappa_1 + \kappa_2)$を平均曲率,$K= \kappa_1 \kappa_2$をGauss曲率という.主曲率,平均曲率は$n$の取り方を変えると符号が変わる.Gauss曲率は$n$の取り方によらない.
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Gauss曲率の絶対値$|K|$は,Gauss写像の下での面積の拡大率である.例:$S^2_R = \{(x,y,z) : x^2+y^2+ z^2 = R^2\}$のガウス写像は$n(p) = p/R$で与えられるから,そのガウス曲率は$1/R^2$.
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第2基本形式:$I\!I(u,v) = g(u,S(v))$.成分で書くと,$I\!I_{i,j} = I\!I(\partial_i,\partial_j) = (\partial_i f, \partial_j n) = - (\partial_i \partial_j f, n)$.
伝統的な記号では,$I\!I = I\!I_{i,j} dx^i dx^j = L(x) (dx^1)^2 + 2 M (x) dx^1 dx^2 + N(x) (dx^2)^2$.
- 演習:
\[
K = \frac{\det (I\!I_{i,j})}{\det(g_{i,j})} = \frac{LN-M^2}{EG-F^2}, \quad H = \frac{GL-2 FM + EN}{2(EG-F^2)}
\]
- 例:曲面$z = \frac{1}{2}(ax^2+ by^2)$の原点での主曲率は$-a,-b$, ガウス曲率は$ab$.演習:$z= h(x,y)$で与えられる曲面のGauss曲率を求めよ.
- ガウスの驚きの定理:ガウス曲率は計量$g_{i,j}$のみで定まる.(shape operator や $\kappa_i$, $H$ はそうではない.)
-
$M$上のベクトル場の共変微分(Levi-Civita接続).この話は一般の$M\subset \mathbb{R}^N$でよい.$X = X^i(x) \partial_i$を$M$上のベクトル場とする.$X$を$\mathbb{R}^N$に値を取る関数とみなしたものを,$\overrightarrow{X}(x) = X^i(x) \partial_i f(x)$と書く. $X$の座標$x^j$に関する共変微分を$\nabla_j X := (\partial_j \overrightarrow{X})^\parallel$で定義する.より一般に,$Y=Y^j \partial_j$を別のベクトル場とするとき,$X$の$Y$に関する共変微分を$\nabla_Y X := (Y(\overrightarrow{X}))^\parallel = Y^j \nabla_j X$で定義する.
- 計算により,$\nabla_i = \partial_i + \Gamma_i$の形に座標表示されることが分かる.ここで$\Gamma_i = (\Gamma_{i,j}^k)_{j,k}$は$n\times n$行列.
- 定義:$\nabla$の曲率を$R_{i,j}(X) = \nabla_i \nabla_j X - \nabla_j \nabla_i X$で定義する.計算により,これは$X$の微分を含まず,行列$\partial_i \Gamma_j - \partial_j \Gamma_i + [\Gamma_i,\Gamma_j]$で与えられる.各点$x$ごとに$\operatorname{End}(T_xM)$の点を与えている.
- $R = \frac{1}{2} R_{i,j} dx^i \wedge dx^j$を曲率形式という.演習:これは座標の取り方によらずに,$\operatorname{End}(T_xM)\otimes \bigwedge^2 T^*_xM$の元を定める.($\operatorname{End}(TM)$に値を取る2-form.)演習:$R_{i,j}$はRiemann計量$g$に関して反対称.
- 定理:$M\subset \mathbb{R}^3$を曲面とするとき,$g(R_{12}\partial_1, \partial_2) = -\deg (I\!I_{i,j}) = -K \det(g_{i,j})$が成り立つ.$R_{i,j}$は$\Gamma_{i,j}^k$を使って表せ,$\Gamma_{i,j}^k$は$g_{i,j}$を使って表せるから,Gaussの驚きの定理がこれから従う.
10月29日
- $M\subset \mathbb{R}^N$:埋め込まれた$n$次元多様体.
- 共変微分のLeibniz rule: $h$を関数とするとき, $\nabla_i (h X)= (\partial_i h) X + h \nabla_i X$.
- 曲線$c\colon [a,b] \to M$に沿った平行移動$\Pi_c\colon T_{c(a)}M \to T_{c(b)}M$は計量$g$を保つ線形変換であること.
- $c$が閉じた道$c(a) = c(b)$であるとき,線形変換$\Pi_c \colon T_{c(a)}M \to T_{c(a)}M$をホロノミー(holonomy)という.
- 例:球面上の測地三角形の境界に沿ったホロノミーは角度$2\pi - (\theta_1 + \theta_2 + \theta_3)$だけの回転.ただし,$\theta_i$は外角.
- 曲率とホロノミーの関係:曲率は微小なホロノミーである.$(x^1,x^2)$, $(x^1+\Delta x^1, x^2)$, $(x^1, x^2+ \Delta x^2)$, $(x^1 + \Delta x^1, x^2+\Delta x^2)$を頂点とする微小長方形を考えて,$(x^1,x^2)$から$(x^1+\Delta x^1, x^2 + \Delta x^2)$に至る二通りの道の平行移動の差を計算すると,$R_{21} \Delta x^1 \Delta x^2$で与えられることが近似計算により確かめられる.
- 以下,$M\subset \mathbb{R}^3$を再び曲面とする.目標:ガウス・ボンネの定理
- 動標構(moving frame):$x\in M$に滑らかに依存する$T_xM$の正規直交基底$e_1(x), e_2(x)$.局所的には,例えば,$\partial_1,\partial_2$ に Gram-Schmidt の直交化法を適用して得ることができる.
- $M$は向き付けられているとし,動標構$\{e_1,e_2\}$や座標$\{x^1,x^2\}$は正の向きとする.
- 補題:ある関数$\omega_1,\omega_2$が存在して,$\nabla_i e_1 = \omega_i e_2$, $\nabla_i e_2 = - \omega_i e_1$.
- $\omega = \omega_i dx^i$とおくとき,
\[
[\nabla e_1, \nabla e_2]
= [e_1, e_2] \begin{pmatrix} 0 & -\omega \\ \omega & 0 \end{pmatrix}
\]
- 曲線$c(t)$に沿った接ベクトルの平行移動は(動標構で見たとき)角度$\varphi = - \int_a^b c^*\omega$だけの(左回りの)回転である.
- 定理(Gauss-Bonnet) :$D\subset M$を単純閉曲線$c$に囲まれた領域(境界付き部分多様体)とする.また$D$はある座標近傍に含まれるとし,$c$は$D$を左回りに見ながら進む向きを付ける($D$の境界としての向き).このとき,$c$に沿ったホロノミーは角度$\varphi = \int_D K dA$だけの左回りの回転である.ここで$K$はガウス曲率で,$dA$は面積要素.
- $\theta^1,\theta^2$を$e_1,e_2$の双対基とするとき,$dA=\theta^1 \wedge \theta^2$(演習).
- Stokes の定理より,$\varphi = - \int_a^b c^*\omega = -\int_{\partial D} \omega = - \int_D d\omega$. あとは$d\omega = - K \theta^1 \wedge\theta^2$を示せばよい.
- 前回示した$g(R_{12} \partial_1,\partial_2) = - K \det(g_{ij})$の動標構を使った言いかえ(演習):$g(R(e_1,e_2)e_1,e_2) = -K$.ただし,$R = \frac{1}{2} R_{ij} dx^i \wedge dx^j$.
- 動標構での接続の式を使って,$R e_1 = (d\omega) e_2$, $R e_2 = - (d\omega) e_1$が分かる.つまり$g(R e_1, e_2 ) = d \omega$.これと上の「言いかえ」より,$d \omega = - K \theta^1 \wedge \theta^2$.これからGauss-Bonnetの定理が従う.
- 系:$P\subset M$を測地多角形とするとき,$\int_P K dA = 2\pi - \sum \theta_i$, ここで$\theta_i$は$P$の各頂点での外角.
- 系:$S^2_R$の測地多角形の面積は$R^2 (2\pi - \sum \theta_i)$である.
11月5日
- ガウス・ボンネの定理についての補足.$M$を(向き付けられた)閉曲面とするとき,$\int_M K dA = 2\pi \chi(M)$が成立する.ここで$\chi(M)$はオイラー数.これもGauss-Bonnetの定理という(微分幾何学的な量とトポロジカルな量が一致する,という重要な定理).授業では,$M$が測地三角形による三角形分割をもつことを仮定して示した.
- 演習:$M$が滑らかな三角形分割を持つと仮定して同じことを示せ.
- 演習:座標ベクトル場$\partial_1,\partial_2$が正規直交基底になるような局所座標$\{x^1,x^2\}$はいつでもとれるか?(答え:否)
- 演習:ガウス曲率の物理的な次元は何か?(答え:長さの$(-2)$乗)
- 双曲幾何.ガウス曲率が負の一定値となる曲面は何か?
- $x>0$で定義された関数$z=f(x)$のグラフを$z$軸の周りに回転して得られる曲面のガウス曲率を求める.答え:$\displaystyle K = \frac{f'f''}{x(1+(f')^2)^2}$.
- $K=-1$とおいて微分方程式を解く.一つの解として$\displaystyle f(x) = \log(\frac{1+\sqrt{1-x^2}}{x}) - \sqrt{1-x^2}$が得られる.
ここで$x$の範囲は$(0,1]$.対応する回転面をBeltrami の擬球面(pseudosphere)という.
- 演習:1. (一般に回転面の)母線は測地線である.2. 擬球面の面積は$2\pi$である.3. 点$P=(x,f(x))$での曲線$z=f(x)$の接線と$z$軸の交わりを$Q$とするとき,$PQ$の長さは常に1である.このことから曲線$z= f(x)$はtractrixと呼ばれる.
-
擬球面は測地的に完備ではない(母線がそれ以上伸ばせないから).事実(Hilbert):$K=-1$を満たす測地的に完備な曲面は$\mathbb{R}^3$への等長はめ込みを持たない.
- 座標$y = 1/x$とおくと,擬球面のRiemann 計量は $g= \frac{(dy)^2 + (d\theta)^2}{y^2}$で与えられる.$y$の範囲は$y\ge 1$.
- Poincaré上半平面:$\mathbb{H}^2 = \{(x,y) \in \mathbb{R}^2: y>0\}$.この上の計量を$g = \frac{(dx)^2 + (dy)^2}{y^2}$で与える.これはユークリッド空間への(等長)埋め込みが与えられていないRiemann多様体.この$x\in [0,2\pi], y\ge 1$の部分(で辺$x=0$と$x=2\pi$を同一視したもの)が擬球面に対応する.
-
Levi-Civita接続$\nabla$が計量だけを使って定まったことを思い出す.$\Gamma^k_{i,j} = \frac{1}{2} \left( \partial_i g_{l,j} + \partial_j g_{l,i} - \partial_l g_{i,j}\right) g^{l,k}$を使って,接続行列$\Gamma_i=(\Gamma^k_{i,j})_{k,j}$が次のように求まる(演習問題).
\[
\Gamma_x = \begin{pmatrix} 0 & -1/y \\ 1/y & 0 \end{pmatrix}, \quad \Gamma_y = \begin{pmatrix} -1/y & 0 \\ 0 & -1/y \end{pmatrix}
\]
- これを使って曲率$R_{xy}=\partial_x \Gamma_y - \partial_y \Gamma_x - [\Gamma_x,\Gamma_y]$が求まり,Gauss曲率$K$が$g(R_{xy}\partial_x,\partial_y) = - K \det(g_{ij})$により定められる(埋め込まれていない曲面のGauss曲率の定義).$K=-1$であることが確認できる.
- 測地線の概念も(埋め込まれているときと同様に)定義できる.$\gamma(s) = (x(s),y(s))$に対する測地線の方程式$\nabla_s \frac{ d\gamma(s)}{ds} = 0$は次のように書ける.
\[
\begin{pmatrix} x'' \\ y'' \end{pmatrix} + (x' \Gamma_x + y' \Gamma_y ) \begin{pmatrix} x' \\ y' \end{pmatrix} = 0 \Leftrightarrow x'' - 2 \frac{x'y'}{y} = 0, \quad y'' + \frac{(x')^2 - (y')^2}{y} = 0
\]
- 弧長パラメータ付けされていると仮定する:$\frac{(x')^2+(y')^2}{y^2} = 1$.これらを解いて測地線の軌跡は$(A,0)$を中心とする半円あるいは,$x$軸に直交する半直線であることが分かる.(つまり,$x$軸と直角に交わる円または直線)
- 演習:軌跡が円になるとき,パラメータ$s$の平行移動を除き,$x(s) = R \tanh(s) + A$, $y(s) = R/\cosh(s)$の形に解けることを示せ.
- $\mathbb{H}^2$は測地的に完備である.非ユークリッド幾何のモデルを与えている.(非ユークリッド幾何:ユークリッドの「原論」にある第5公準を仮定しない幾何学として生まれた.)
11月12日
- 上半平面$\mathbb{H}^2$についての補足:Poincaré 計量$g_{\mathbb{H}^2}=\frac{(dx)^2+(dy)^2}{y^2}$は$x$軸($y=0$)の近くでは無限大に発散する.また,接ベクトルの角度は通常の角度と同じである.
- 非ユークリッド幾何のモデルとしての$\mathbb{H}^2$:「直線」を$\mathbb{H}^2$の測地線のこととする.このとき,(1) 異なる2点を結ぶ「直線」がただ一つ存在する.(2) 「直線」$\ell$とその上にない点 $\mathrm{P}$ に対して, $\mathrm{P}$ を通り,$\ell$と交わらない「直線」が無数に存在する.(3) $\mathrm{P}$ から$\ell$に「垂線」をおろすことができる.
- 演習(Bolyai-Lobachevsky の定理):「直線」$\ell$の上にない点 $\mathrm{P}$ から$\ell$への「垂線」の足を $\mathrm{Q}$ とする.$x$を $\mathrm{PQ}$ の長さとする.$\mathrm{PQ}$ と角度$\alpha\in (0,\pi)$をなし, $\mathrm{P}$ を通る直線$m$が角度$\alpha$の側で$\ell$と交わらない$\Longleftrightarrow$ $\tan(\alpha/2) \ge e^{-x}$.
- Poincaré 円盤モデル.$D^2 = \{(x,y) \in \mathbb{R}^2: x^2+y^2<1\}$.複素平面の単位円の内部と同一視する.写像(Cayley変換)$\psi \colon D^2 \to \mathbb{H}^2$により,$D^2$と$\mathbb{H}^2$は微分同相(正則同型)となる.
\[
w = \psi(z) = \frac{i(1+z)}{1-z}, \quad \text{逆変換は } z = \frac{w-i}{w+i}
\]
-
$\mathbb{H}^2$上のPoincaré 計量は$g_{\mathbb{H}^2} = \dfrac{dw d\bar{w}}{\Im(w)^2}$と書ける.
$D^2$上にこれを引き戻すと$g_{D^2} = \psi^* g_{\mathbb{H}^2} = \dfrac{4 dz d \bar{z}}{(1-|z|^2)^2}$となる.
- Möbius 変換とは$f(z) = \frac{az + b}{cz+d}$の形で与えられる$\mathbb{C}\mathbb{P}^1$の正則自己同型.ただし$a,b,c,d\in \mathbb{C}$は$ad-bc\neq 0$を満たす.Möbius変換は$\mathbb{C}\mathbb{P}^1$の斉次座標で書くと行列$A=\begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix}$で与えられる線形変換に他ならない.以下,この$A$に対して,$f_A(z) =\frac{az+b}{cz+d}$と書く.逆に,$\mathbb{C}\mathbb{P}^1$の任意の正則自己同型はMöbius 変換で与えられ,したがって$\mathbb{C}\mathbb{P}^1$の正則自己同型のなす群は$\{f_A : A\in GL(2,\mathbb{C})\} = PGL(2,\mathbb{C}) = PSL(2,\mathbb{C})$である.
- 円円対応:Möbius変換は$\mathbb{C}\mathbb{P}^1$内の円または直線を円または直線に移す.(ここで直線は無限遠点$\infty$を通る円と思える.)
- Poincaré 円盤における測地線は$\partial D^2$と直角に交わる円または直線である.
- 定理:$D^2$の向きを保つ等長変換全体は$\{f_A : A \in SU(1,1)\}\cong PSU(1,1)$で与えられる.
- 演習:Cayley変換で共役を取ることにより,$\mathbb{H}^2$の向きを保つ等長変換全体は$\{f_A : A \in SL(2,\mathbb{R})\} \cong PSL(2,\mathbb{R})$で与えられる.
11月19日
- 演習:$\ell, \ell'$を$\mathbb{H}^2$の測地線,$P\in \ell, P'\in \ell'$とする.$\ell$を$\ell'$に移し,$P$を$P'$に移す$\mathbb{H}^2$の等長変換が存在することを示せ.(向きを保つものは2つ,向きを保たないものを含めると4つある.)
- 複比:$z_1,z_2,z_3,z_4\in \mathbb{C}\mathbb{P}^1$に対して,$\displaystyle [z_1,z_2,z_3,z_4] = \frac{(z_3-z_1)(z_4-z_2)}{(z_3-z_2)(z_4-z_1)}$と定める.これは$z_1,z_2,z_3,z_4$のうち3つ以上が相異なるときに$\mathbb{C}\mathbb{P}^1$の元として定まる.
- $f(z) = [z_1,z_2,z_3,z]$は$f(z_1) = \infty$, $f(z_2) = 0$, $f(z_3) = 1$を満たすMöbius変換として特徴づけられる.
- 演習:$w_i = \frac{az_i + b}{c z_i + d}$のとき,$[z_1,z_2, z_3, z_4] = [w_1, w_2, w_3, w_4]$を示せ.(複比は「$\mathbb{C}\mathbb{P}^1$の4点のモジュライ空間」と$\mathbb{C}\mathbb{P}^1$の間の同型写像を与えている.)
- $\mathbb{H}^2$の2点$z,w$の距離$d(z,w)$を,$z,w$を結ぶ測地線の長さとして定義する.
- 上半平面の測地線を虚軸に移す等長変換を考えることで,$d(z,w) = |\log [z,w,x,y]|$が分かる.ここで$x,y \in \mathbb{R}$は$z$と$w$を結ぶ測地線の極限点.
- 複比の不変性から,円盤モデルでも同じ式が成立する.$z,w\in D^2$について$w$を0に写す等長変換を考えることにより,$d(z,w) = \displaystyle \log \left(\frac{1+\left|\frac{z-w}{z\bar{w}-1}\right|}{1-\left|\frac{z-w}{z\bar{w}-1}\right|}\right)$が分かる.
- 演習:$\mathbb{H}^2$の2点$z,w$の距離は$d(z,w) = \displaystyle \log \left(\frac{1+\left|\frac{z-w}{z-\bar{w}}\right|}{1-\left|\frac{z-w}{z-\bar{w}}\right|}\right)$
- 演習:非ユークリッド幾何におけるピタゴラスの定理:$a,b,c$を$D^2$内の測地直角三角形の3辺の長さとするとき,$\cosh(c) = \cosh(a) \cosh(b)$が成り立つことを示せ. $a,b,c$が小さい極限で$c^2 \approx a^2 + b^2$.
- 演習:$d(z,w)$は$z$と$w$を結ぶ道の長さの最小値であることを示せ.
- 双曲面モデル:球面の方程式$x^2 + y^2 + z^2 = R^2$において$R$を$iR$に置き換えると,負曲率の曲面ができるのでは?ただし,$x,y,z$を複素数の範囲で考えないと空になってしまう.ここでは$z$を$iz$で置き換えて,$x^2 + y^2 - z^2 = -R^2$を考えよう.
- このとき$\mathbb{R}^3$の計量は$g = (dx)^2+ (dy)^2 - (dz)^2$になる.これは正定値ではない計量になっている.このような正定値とは限らない計量を擬Riemann計量という.この計量が与えられた$\mathbb{R}^3$を$\mathbb{R}^{2,1}$と書き,Minkowski空間という.(特殊相対性理論における時空は$\mathbb{R}^{3,1}$である.)
- 双曲面を$M=\{x^2 + y^2 - z^2 = -1, z>0\}$とおく.命題:$\mathbb{R}^{2,1}$のMinkowski計量は$M$上の正定値計量を誘導する.
- 点$(0,0,-1)$からの立体射影により,微分同相写像$\pi\colon M \cong D^2$が作れる.演習:$\pi$が等長変換であることを示せ.つまり,$(\pi^{-1})^* g_{\mathbb{R}^{2,1}} = g_{D^2}$であることを示せ.
- 演習:双曲面$M$の等長変換群は$O^+(2,1)$. さらに向きを保つものは$SO^+(2,1)$.
- 演習:双曲面モデルにおける測地線は2次元部分ベクトル空間との交わりである.(Levi-Civita接続が直交射影で与えられることを使うと,$S^2$のときと同じ議論.)
- ベクトル束の定義,局所自明化,自明束,接束
- ベクトル束の変換関数,変換関数の満たすコサイクル条件,変換関数からベクトル束を復元する方法(多くを演習に委ねる).
11月26日
- ベクトル束の切断,枠
- ベクトル束が枠を持つ$\Leftrightarrow$ ベクトル束が自明束と同型
- ベクトル束の計量,任意のベクトル束に計量が存在すること,任意の(パラコンパクト)多様体はリーマン計量を持つこと
- (局所的な)正規直交枠の存在
- ベクトル束の直和,部分ベクトル束,商ベクトル束,直交補束,双対束,テンソル積,Hom,End,外積
- ベクトル束の接続とは写像$\nabla \colon \mathfrak{X}(M)\times \Gamma(V) \to \Gamma(V)$, $(X,s) \mapsto \nabla_X s$であって,$X$について$C^\infty(M)$線形,$s$について$\mathbb{R}$線形,Leibniz則 $\nabla_X (fs ) = (Xf) s + f \nabla_X s$, $f\in C^\infty(M$) を満たすもの.
- 接続の局所性.$U\subset M$を開集合とする.$V\to M$の接続$\nabla$は$V|_U$の接続を自然に誘導する.
- $X \mapsto \nabla_X s$は$C^\infty(M)$線形であることから,$\nabla_X s$の点$x\in M$での値は$X$については$X_x$のみで決まる.さらに,$V$に値を取る1形式$\nabla s \in \Gamma(T^*M\otimes V)$が存在して$\nabla_X s = \langle X, \nabla s\rangle$と書ける.
12月3日
- 接続は$\nabla \colon \Gamma(V) \to \Gamma(T^*M\otimes V)$なる$\mathbb{R}$線形写像で$\nabla (f s) = df \otimes s + f \nabla s$を満たすものとしても定義することができる.
- 接続の例:自明束の自明な接続.部分多様体$M\subset \mathbb{R}^N$の接束に(直交射影の方法で定まる)接続.
- 接続の局所表示:局所自明化の下で,$\nabla = d + A$の形に書けること, ここで$A=(a^i_j)$は$r$次正方行列に値を取る$1$-form.
- 自明化の取り換え:$U\times \mathbb{R}^r \cong U\times \mathbb{R}^r, (x,v) \mapsto (x, g(x)v)$の下で,接続$\nabla= d+A$が接続$d+A'$に対応するとすると,$A' = g A g^{-1} + g d(g^{-1})$.
- 変換関数$g_{\alpha\beta}\colon U_{\alpha\beta} \to GL_r(\mathbb{R})$により与えられるベクトル束の接続を定めることは,$U_\alpha$上の$r$次正方行列値$1$-form $A^{(\alpha)}$たちの集まりで,$U_{\alpha\beta}$上で$A^{(\alpha)} = g_{\alpha\beta} A^{(\beta)} g_{\alpha\beta}^{-1} + g_{\alpha\beta} d(g_{\alpha\beta}^{-1})$を満たすものを与えることと同じ.
- 接続全体のなす空間はアフィン空間である.命題1: $\nabla^1$, $\nabla^2$を接続とするとき$(1-t) \nabla^1 + t\nabla^2$は接続である.命題2: $\nabla^0$を$V$の与えられた接続とする.$V$の任意の接続はある$A\in \Gamma(T^*M \otimes \operatorname{End}(V))$を用いて,$\nabla = \nabla^0 + A$の形に書ける.
- 命題:$V_1,\dots,V_k, W$を$M$上のベクトル束とする.このとき(1) $C^\infty(M)$上の多重線形写像$\Gamma(V_1) \times \cdots \times \Gamma(V_k) \to \Gamma(W)$と (2) $T\in \Gamma(V_1^* \otimes \cdots \otimes V_k^*\otimes W)$ の間に一対一対応がある.
- $\overbrace{T^*M\otimes \cdots \otimes T^*M}^{s} \otimes \overbrace{TM \otimes \cdots \otimes TM}^{r}$の切断を$(r,s)$型のテンソルという.
- 注:接束の接続$\nabla \colon \mathfrak{X}(M) \otimes \mathfrak{X}(M) \to \mathfrak{X}(M)$はテンソルではない.
- ベクトル束の曲率の定義:$R(X,Y)s = \nabla_X \nabla_Y s - \nabla_Y \nabla_X s - \nabla_{[X,Y]} s$,$X,Y\in \mathfrak{X}(M), s\in \Gamma(V)$.これは各変数について$C^\infty(M)$線形であり,$X$と$Y$の入れ替えについて反対称.従って,$\bigwedge^2 T^*M\otimes \operatorname{End}(V)$の切断を定める.これを「$\operatorname{End}(V)$に値を取る$2$-form」という.
-
$TM$の接続$\nabla$のtorsion: $T_\nabla(X,Y ) = \nabla_X Y - \nabla_Y X - [X,Y]$.これは$(1,2)$型テンソルになる.
- 計量$g$を持つベクトル束$V\to M$の接続$\nabla$が$g$を保つ$\Leftrightarrow$ 任意の$X\in \mathfrak{X}(M)$, $s_1,s_2 \in \Gamma(V)$に対して,$Xg(s_1,s_2) = g(\nabla_X s_1, s_2) + g(s_1, \nabla_X s_2)$が成り立つ.
- 定理:$M$をRiemann多様体とする.このとき$TM$の接続で,torsion-free ($T_\nabla = 0$) であり,計量を保つものがただ一つ存在する.このような接続を Levi-Civita接続 という.
12月10日
- Levi-Civita接続の存在と一意性の証明
- (前回やり残したこと)paracompact多様体上の任意のベクトル束は接続を持つ.
- Levi-Civita接続の曲率をリーマン曲率という.$X,Y,Z,W\in \mathfrak{X}(M)$に対して,$R(X,Y)Z = \nabla_X \nabla_Y Z - \nabla_Y \nabla_X Z -\nabla_{[X,Y]}Z$, $R(X,Y,Z,W)=g(R(X,Y)Z,W)$と定める.座標表示$R(\partial_i,\partial_j) \partial_k = {R_{i,j,k}}^{l} \partial_l$.$R_{i,j,k,l} = R(\partial_i,\partial_j, \partial_k, \partial_l ) = {R_{i,j,k}}^{a} g_{al}$.
- Bianckiの第1恒等式: $R(X,Y)Z + R(Y,Z) X + R(Z,X)Y = 0$.
-
$R(X,Y,Z,W) = -R(Y,X,Z,W)$, $R(X,Y,Z,W) = - R(X,Y,W,Z)$, $R(X,Y,Z,W) = R(Z,W,X,Y)$
- 演習:以上の性質からわかる曲率テンソル$R_{i,j,k,l}$の独立な成分の数は?答え:$\frac{m^2(m^2-1)}{12}= \frac{1}{2}\binom{m}{2}(\binom{m}{2}+1) - \binom{m}{4}$. (John M. Lee の教科書のProposition 7.21を見よ)
- 2次元部分空間$V\subset T_xM$に対して,その正規直交基底を$\{e,f\}$とする.このとき,$V$の断面曲率は$K(V) = -R(e,f,e,f)$で定義される.$M$が2次元多様体で$V=T_xM$のときは,Gauss曲率と一致する.
- 全ての2次元部分空間$V\subset T_xM$に対して断面曲率$K(V)$が分かれば,リーマン曲率テンソル$R_x \in (T_x^*M)^{\otimes 4}$は決定される.
- Ricci 曲率.$\operatorname{Ric}(X,Y) = \operatorname{Trace}(Z \mapsto R(Z,X)Y)$. $\operatorname{Ric}_{ij} = {R_{kij}}^k = R_{kijl} g^{kl} = R_{iklj} g^{kl} = -R_{kilj} g^{kl} = - R_{ikjl} g^{kl}$.
- 正規直交基底$\{e_i\}_{i=1}^m\subset T_xM$を使うと,$\operatorname{Ric}(X,Y) = \sum_{i=1}^m g(R(e_i,X)Y, e_i) = \sum_{i=1}^m R(e_i,X,Y,e_i)$と書ける.Ricciテンソルは$X,Y$について対称.
- $v\in T_xM$を単位ベクトル($g(v,v)=1$),$\{v,e_2,\dots,e_m\}$を$T_xM$の正規直交基底とするとき,$\operatorname{Ric}(v,v) = \sum_{i=2}^m K(\langle v, e_i\rangle)$.
12月17日
- スカラー曲率 $S = \sum_{i=1}^m \operatorname{Ric}(e_i,e_i) = \operatorname{Ric}_{i,j} g^{i,j}$.ただし,$\{e_i\}$は正規直交基底.演習:$S= \sum_{i\neq j} K(\langle e_i,e_j\rangle)$ を示せ.
- 例:$\mathbb{R}^n$にEuclid計量を入れたとき,その曲率はゼロとなる.
- 命題: $S^m_R = \{(x^1,\dots,x^{m+1}) \in \mathbb{R}^{m+1} : (x^1)^2+ \cdots + (x^{m+1})^2 = R^2\}$の断面曲率は常に$1/R^2$である.(定曲率空間)
- この命題を局所座標を使った具体的な計算により示せ.($g_{i,j}$, $\Gamma_{i,j}^k$, $R_{i,j,k,l}$を計算する.)
- Riemann多様体$M$の部分多様体$S$に誘導されるRiemann計量(Riemannian submanifold)
- $M$のLevi-Civita 接続$\nabla$の$S$への制限の定義:$TM|_S$の接続$\nabla$を,$X\in \mathfrak{X}(S)$, $Y\in \Gamma(TM|_S)$に対し次の式で定める.
\[
\nabla_X Y|_{U\cap S} = \nabla_{\widetilde{X}} \widetilde{Y}|_{U\cap S}
\]
ただし,$U$は$M$の開集合,$\widetilde{X},\widetilde{Y}$は$U$上のベクトル場で,$U\cap S$上で$X$, $Y$と一致するもの.(このような$\widetilde{X},\widetilde{Y}$の存在は演習とする.)
- (1) この定義は$X,Y$の局所的な拡張$\widetilde{X}, \widetilde{Y}$の取り方によらない.(2) Leibnitz rule を満たし,$TM|_S$の接続を定める.(3) さらに$TM|_S$の計量を保つ.
- 第2基本形式:$X,Y\in \mathfrak{X}(S)$に対して,$Y\in \Gamma(TM|_S)$と思うとき,上の$TM|_S$の接続と直交分解$TM|_S = TS \oplus TS^\perp$を使って
\[
\nabla_X Y = \nabla_X^S Y + I\!I(X,Y), \quad \nabla_X^SY \in \Gamma(TS), \quad I\!I(X,Y) \in \Gamma(TS^\perp)
\]
と分解する.$I\!I(X,Y)$を第2基本形式という.以下,$N = TS^\perp$とおく.これを法ベクトル束という.
- 命題: (1) $I\!I(X,Y)$は$C^\infty(S)$多重線形であり,$(T^*S)^{\otimes 2} \otimes N$の切断を定める.(2) $I\!I(X,Y) = I\!I(Y,X)$ (3) $\nabla^S$は$S$のLevi-Civita接続を定める.
- 命題(Weingartenの式):$n\in \Gamma(N)$に対して$n\in \Gamma(TM|_S)$と思う.$X,Y\in \mathfrak{X}(S)$に対して,$g(\nabla_X n, Y)= - g(n,I\!I(X,Y))$.
- 注:
$(\nabla_X n)^\parallel$はshape operator の高次元版と思える.(曲面の時は第2基本形式はShape operator を使って定義されていた.)
- 命題(Gaussの式):$R$を$M$のリーマン曲率テンソル,$R^S$を$S$のリーマン曲率テンソルとする.
$X,Y,Z,W \in \mathfrak{X}(S)$に対して,
\[
R(X,Y,Z,W) = R^S(X,Y,Z,W) - g(I\!I(Y,Z), I\!I(X,W)) + g(I\!I(X,Z), I\!I(Y,W))
\]
- もし$M$のRiemann曲率がゼロなら,上の式は$S$のリーマン曲率を第2基本形式を使って表す式となる.
- 例:$S\subset \mathbb{R}^{m+1}$を超曲面($\dim S = m$)とする.$\vec{n}\in \Gamma(N)$を単位法ベクトルとし,Shape operator を$\mathbb{S}(X) = X\vec{n} = \nabla_X \vec{n}$と定める.これは$\mathbb{S} \colon T_x S \to T_x S$を定める.Weingartenの式から$I\!I(X,Y) = - g(\mathbb{S}X,Y)$となる.
- さらにGaussの式から$R^S(X,Y,Z,W) = g(\mathbb{S}Y,Z) g(\mathbb{S}X,W) - g(\mathbb{S}X, Z) g(\mathbb{S}Y,W)$が分かる.これから,2次元部分空間$V \subset T_xS$の断面曲率は$K(V) = \det(\pi_V \circ \mathbb{S}|_V)$で与えられることが分かる.ここで$\pi_V \colon T_xS \to V$は直交射影.
- これから$S^m_R$の断面曲率が計算できる.
12月24日
- 前回やり残した例(高次元の双曲面):$M_R = \{(x^1,\dots,x^{m+1})\in \mathbb{R}^{m+1} : (x^1)^2+\cdots+(x^m)^2- (x^{m+1})^2 = -R^2\}$とおき$M_R$に擬Riemann計量$g=(dx^1)^2+ \cdots + (dx^m)^2 - (dx^{m+1})^2$から誘導される計量を入れる.$M_R$に誘導される計量は正定値である.擬リーマン計量の場合もLevi-Civita接続は意味を持つ.さらに直交分解 $\mathbb{R}^{m,1} = T_x M_R \oplus \mathbb{R}(x^1,\dots,x^{m+1})$が存在するため,第2基本形式やGaussの式などは同様に成り立つ.そのことを使って,$M_R$は断面曲率が$-1/R^2$の定曲率空間であることが分かる.
- ベクトル束の接続の一般論に戻る.
- 接続付きベクトル束$V, V_1, V_2$が与えられたとき,
(1) 双対束$V^*$の接続,(2) テンソル積束$V_1\otimes V_2$の接続,(3) $\operatorname{Hom}(V_1,V_2)$の接続の定義.演習:授業で与えた定義が接続を定めることを示せ.
- 演習:$\operatorname{Hom}(V_1,V_2) \cong V_1^*\otimes V_2$と思うとき,その接続の定義は(1)と(2)を組み合わせたものになっていることを確かめよ.
- 例:$TM$のLevi-Civita接続から$(T^*M)^{\otimes s} \otimes TM)^{\otimes r}$の接続が定まる($(r,s)$型テンソルに対する接続).
- 演習:$V\to M$のある局所自明化$V|_U \cong U\times \mathbb{R}^r$について$\nabla = d + A$と表示されているとする.ここで$A \in \operatorname{End}(\mathbb{R}^r) \otimes \Omega^1_U$. このとき,双対束$V^*$の接続の(対応する自明化に関する)局所表示は $ d- {}^{t}A$で与えられる.
- 例:Levi-Civita接続 $\nabla_i \partial_j = \Gamma_{i,j}^k \partial_k$の誘導する$T^*M$の接続は$\nabla_i dx^j = - \Gamma_{i,k}^j dx^k$で与えられる.
- 演習:$\nabla_i (dx^j \otimes \partial_k)$を計算せよ.答え:$-\Gamma_{i,l}^j dx^l \otimes \partial_k + \Gamma_{i,k}^l dx^j\otimes \partial_l$.
- ベクトル束と接続の引き戻し.$f\colon N\to M$を滑らかな写像.$p\colon V\to M$をベクトル束とするとき,$f^*V = \{(x,v) \in N\times V : f(x) = p(v)\}$は$N$上のベクトル束を定める.射影$q\colon f^*V \to N$は$q(x,v) = x$で与える.$(f^*V)_x = V_{f(x)}$, $f^*V$は滑らかな多様体の構造を持つ(演習),$V$の$U\subset M$上の自明化は$f^*V$の$f^{-1}(U)$上の自明化を誘導する.切断$s\in \Gamma(V)$の引き戻し$f^*s \in \Gamma(f^*V)$が$f^*s(x) = s(f(x))$により定まる.
- $\nabla$を$V$の接続とする.点$x\in N$に対して,$f(x)\in M$を含む$M$の開集合$U$と$V|_U$の枠$s_1,\dots,s_r$を取る.この時,$f^*s_1,\dots,f^*s_r$は$f^*V|_{f^{-1}(U)}$の枠を定める.$t\in \Gamma(f^*V)$に対して
\[
t|_{f^{-1}(U)} = \sum_i a_i (f^*s_i), \quad a_i \in C^\infty(f^{-1}(U))
\]
と展開しておく.このとき,$X\in \mathfrak{X}(N)に対して$,$f^*\nabla_X t$ の点$x$での値を
\[
f^*\nabla_X t \Bigr|_x = \sum_i X(a_i) f^*s_i\Bigr|_x + \sum_i a_i(x) \nabla_{f_*(X_x)} s_i \Bigr|_x
\]
と定める.ここで$f_*(X_x) = df_x (X_x) \in T_{f(x)}M$であり,$\nabla_{f_*(X_x)} s_i$は$V_{f(x)}$の元として定まることに注意する.
- 演習:上の定義は$U$, $s_i$の取り方によらない.$f^*\nabla_X t$は$f^*V$の滑らかな切断を定める.
- 演習:自明化$V|_U \cong U\times \mathbb{R}^r$の下で,$\nabla = d + A$と局所表示されるとする.ここで$A \in \operatorname{End}(\mathbb{R}^r) \otimes \Omega_U^1$.このとき$f^*V$の対応する自明化の下で,$f^* \nabla = d + f^* A$と局所表示される.
- 演習:前回の$TM|_S$の接続の定義は,上の定義の特別の場合になっていることを確かめよ.
- 曲線に沿った平行移動.$V\to M$を接続付きベクトル束とする.$c\colon [a,b] \to M$を$C^\infty$級曲線とする.
- 命題:$v\in V_{c(a)} = (c^*V)_a$に対して切断$s\in \Gamma(c^*V)$で$s(a) = v$, $c^*\nabla_{\frac{d}{dt}} s = 0$を満たすものが唯一つある.このとき$s(b)\in (c^*V)_b = V_{c(b)}$を$v$の$c$に沿った平行移動という.これは線形同型写像$P \colon V_{c(a)} \to V_{c(b)}$を定める.
- 注意:$c(t)$を含む座標近傍$(U; x^1,\dots,x^m)$および局所自明化$V|_U \cong U\times \mathbb{R}^r$をとり,この自明化の下で,$\nabla_i = \partial_i + A_i(x)$と表示されるとする.ここで$A_i(x)$は$r\times r$行列に値を取る$U$上の関数.このとき$c^*\nabla$は(対応する自明化に関して)
\[
c^*\nabla_{\frac{d}{dt}} = \frac{d}{dt} + \sum_i \frac{d c^i}{dt}(t) A_i(c(t))
\]
と表示される.従って上の$s$を求めることは,常微分方程式を解くことに対応する.
- 演習:上の命題を示せ.
1月7日
- 微小なホロノミ―としての曲率.
- 平坦ベクトル束が局所的にはflat frameを持つこと.ホモトピックな道に沿っての平行移動は同じになること.
- 平坦ベクトル束と基本群の表現.
- 測地線の定義(再)
- 指数写像(exponential map)が$TM$のゼロ切断$M$の近傍で定義されて$C^\infty$級になること.$\exp_x(v)\in M$ は $x\in M$から出発する初速$v\in T_xM$の測地線の$t=1$での値.
- exponential map の$(x,0)\in TM$での微分.ただし$x\in M$で$(x,0)$は$x$での接ベクトル$0\in T_xM$の与える点を表している. $d \exp_{(x,0)} \colon T_{(x,0)}(TM) = T_xM \oplus T_x M \to T_x M$は$d \exp_{(x,0)}(u,v) = u+v$で与えられる.
- $\exp_x \colon \text{($T_xM$の$0$の近傍)} \to M$が局所座標になること.normal coordinate system の定義とその性質.
1月14日
- $\exp_x$による球体および球面の像を各々,測地球・測地球面と呼ぶ.
- 部分集合$W\subset M$がuniformly $\epsilon$-normal であるとは,任意の点$x\in W$に対して$x$を中心とする半径$\epsilon$の測地球$B_\epsilon(x)$が存在して$W\subset B_\epsilon(x)$が満たされること.
-
定理:リーマン多様体の任意の点は,uniformly $\epsilon$-normal neighbourhoodを持つ.
- 極小曲線と測地線の関係.
- 極小曲線(minimizing curve)とは2点を結ぶ区分的滑らかな曲線の中で長さが最小となるもの.
- Gaussの補題:点$x$を中心とする測地球面は$x$から出る測地線と直交する
- 定理:点$p$を中心とする$\epsilon$-測地球体に含まれる点$q$に対して,$p$と$q$を結ぶ長さ$<\epsilon$の測地線は極小曲線である.さらに$p$と$q$を結ぶ極小曲線はこの測地線のパラメータの取り換えで得られるものしかない.
- 十分短い測地線は極小だが,すべての測地線が極小とは限らない.逆に極小曲線は本質的に測地線である.
- 定理:極小曲線は測地線のパラメータの取り換えとして得られる.
- リーマン多様体の2点の距離$d(p,q)$は$p$と$q$を結ぶ区分的滑らかな曲線の長さの下限として定めることができる.